硝子体は、水晶体の奥にある卵白のようにドロッとしたゼリー状の透明な組織です。眼球の大半を占めており、眼球の外側を覆う強膜と共に眼球の形態を保っています。硝子体が何らかの原因により網膜を引っ張ったり、濁ったり、出血したりすると、いろいろな目の障害が引き起こされてきます。
硝子体手術について
硝子体手術は、硝子体内部に起こった病気の治療を目的として、眼内の出血や濁りなどを硝子体と一緒に除去する手法です。具体的には、白目の部分に3ヶ所の小さな穴を開け、そこから細い器具を眼内に挿入して眼の中の出血や濁りを硝子体と一緒に取り除き、網膜に生じた増殖膜や網膜裂孔を治して、網膜の機能を回復させます。
手術の大まかな流れ
ほとんどの硝子体手術は、局所麻酔下に行います。
手術室で目の消毒をした後に、目の下の部分に麻酔注射をします。それでも痛みに過敏な方には、術中に適宜麻酔を追加することで、ほとんどの痛みを取り除けます。
- 1.まず白目の部分に手術機器を挿入します。
- 小さな穴を3ヶ所、開けます。3ヶ所の穴（創口）を開けるのには、それぞれ次のような目的があります。
・1つ目：術中に眼球の形態を保つための灌流液（かんりゅうえき）を入れるため。
・2つ目：眼内を照らす照明器具を入れるため。
・3つ目：硝子体を切除するカッターやレーザープローブなどを入れるため。 - 2.濁った硝子体を切除し、膜を取り除きます。
- 出血などで濁った硝子体をカッターで切除します。切除した分量だけ眼内に灌流液が入り、置き換わっていきます。その後は疾患により、網膜上に張った膜をピンセットのような器具でめくったり、増殖膜と呼ばれる分厚い膜をハサミで切り取ったり、網膜にレーザーを照射したりと、必要に応じた処置を行います。
- 3.網膜剥離や黄斑円孔などの疾患は、灌流液をガスに入れ換えて手術を終えます。
- ガスによって剥離した網膜を元の場所に張り戻したり、開いた穴を閉じさせたりします。ガスを注入した患者さまには、術後は数日間うつむき姿勢をとっていただきます。また、白内障に罹っている患者さまについては、白内障手術も同時に行うことがあります。
※手術時間はケースによりますが、軽症なら20～30分、重症の場合は1時間くらいかかります。
硝子体手術の主な対象疾患
黄斑前膜 黄斑円孔 硝子体網膜牽引症候群 黄斑浮腫 糖尿病網膜症（糖尿病黄斑症） 硝子体出血 網膜剥離 網膜分離症 など
黄斑前膜
黄斑前膜は、網膜の黄斑部に薄い膜が張る疾患です。初期のうちは目立った症状が見られませんが、進行するにつれて網膜がむくんだり膜が厚くなって縮み、しわが出来てしまいます。これに伴い、視力が下がったり、ピントが合わない、物が歪んで見える、などの症状が現れてきます。視力検査や眼底検査、蛍光眼底造影などの検査を行って確定診断します。
黄斑円孔
黄斑円孔は、部分的な後部硝子体剥離に伴う牽引が原因となり、眼底の中心にある黄斑部の網膜に小さい穴が開いてしまう疾患です。黄斑部は網膜の中でも視力を確保する上で特に重要な部分なので、黄斑円孔になると物が歪んで見えたり、視力が落ち込んだりします。眼底検査を行えば、すぐに診断がつきます。以前は治療法が無く、厄介な疾患でしたが、現在では硝子体手術により円孔を閉じ、視力も回復できるようになりました。
硝子体網膜牽引症候群
硝子体網膜牽引症候群は、黄斑円孔と同じように網膜が前方に牽引されますが、円孔には至らない状態です。もっとも、見え方に異常が生じたり、網膜がむくんできたりしたときは、硝子体手術が必要となります。
黄斑浮腫
黄斑浮腫は、網膜の中心部にある黄斑に液状の成分が溜まり、むくみを起こして視力が低下する疾患です。視力低下のほか、物がぼやけて見える、ゆがんで見えるなどの症状を引き起こすこともあります。黄斑浮腫の多くは、糖尿病網膜症、網膜静脈分枝閉塞症、ブドウ膜炎など、様々な疾患が原因となって引き起こるため、治療にあたってはこれらの疾患の改善が必要となります。
糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、糖尿病の状態が長年にわたって続くことによって生じる目の合併症です。網膜の毛細血管が閉塞して血の巡りが悪くなり、黄斑部がむくんでくることもあります。さらに進行すると、硝子体出血や牽引性の網膜剥離を引き起こして視力の低下を招くため、重大な失明原因の一つとなっています。
硝子体出血
硝子体出血は、網膜の血管などが切れて出血し、硝子体の中に血液が溜まった状態です。出血量が多くなると、十分な光を網膜まで届けられず、視力障害を引き起こします。出血の量が少ないときは、視野の中に虫や糸くずのような小さな黒い点がチラつくようになります。経過観察をしながら出血の自然吸収を待つケースから、早急な硝子体手術を要するケースまで、病態によって対応はいろいろになります。
網膜剥離
網膜剥離は、その名の通り網膜が剥がれてくる疾患です。加齢などが原因となって網膜に穴が開き、液化した硝子体が入り込んで徐々に網膜が剥がれる「裂孔原性網膜剥離」、糖尿病網膜症などで生じる「牽引性網膜剥離」などがあります。